ピクルボールで最も議論を呼ぶ瞬間。それはラインコールだ。
「入った」「いや、アウトだ」──試合の流れを一変させるこの判定が、ついにAIの手に委ねられる。MLP(Major League Pickleball)が、スポーツAI企業Owl AIとの提携を発表した。2026シーズンから、AI自動ライン判定とビデオチャレンジシステムがプロピクルボールに導入される。
MLP x Owl AI
テニスのホークアイとは何が違う?
テニスファンなら「ホークアイ(Hawk-Eye)」を知っているだろう。コート周囲に専用カメラ10台以上を設置し、ボールの軌道を3D再現するシステムだ。精度は高いが、導入コストは数千万円規模。設置に数日かかることもある。
Owl AIのアプローチはまったく異なる。100%ソフトウェアベースで、既存の放送カメラ映像をそのまま活用する。特殊なハードウェアは不要。生成AIとコンピュータビジョンを組み合わせ、映像からボールの着地点を解析する仕組みだ。
つまり、ホークアイが「専用スタジアム向けの高級車」なら、Owl AIは「どのコートにも持ち込めるスマートフォン」のような存在といえる。
Owl AIの正体──Xゲームで実証済みの技術
Owl AIは2025年5月に設立された新興企業だが、その背景は強力だ。
創業者はジェレミー・ブルーム(Jeremy Bloom)。フリースタイルスキーでワールドカップ金メダル10個を獲得し、NFL(フィラデルフィア・イーグルス)にもドラフトされた元二刀流アスリート。その後テック業界に転身し、マーケティングソフトウェア企業Integrateを共同創業。**9桁ドル規模(数百億円)**での売却を成功させた。現在はXゲームCEOも兼任する。
CEOのジョシュ・グウィザー(Josh Gwyther)は、元GoogleのAIソリューション部門責任者。Google Cloudで培ったAI技術をスポーツに持ち込んだ。
そしてOwl AIの開発には、**Google共同創業者セルゲイ・ブリン(Sergey Brin)が協力。2025年のXゲーム・アスペン大会では、スノーボード競技のAI審判・予測・解説を実演し、技術力を証明している。シードラウンドで1,100万ドル(約17億円)**を調達済みだ。
具体的に何が変わる?
MLPはOwl AIの**「トレイルブレイザー・プログラム」**に参加する。これにより、2026シーズンで以下が実現する。
- ●自動ライン判定: AIがリアルタイムでイン/アウトを判定
- ●チャレンジの高速化: ビデオチャレンジの判定時間が大幅短縮
- ●既存審判との併用: AIが審判を「置き換える」のではなく、「サポートする」
MLPコミッショナーの**サミン・オドワニ(Samin Odhwani)**はこう述べた。
「MLPにとって、Owl AIのような革新的企業と戦略的に連携し、チャレンジシステムの信頼性と全体的なプロダクション品質を向上させることが最重要だ」
Owl AI CEOグウィザーも応じる。
「我々のAIプラットフォームは、ピクルボールのような高速スポーツが求めるスピードと精度を提供するために構築された。選手にとってのライン判定の公正さだけでなく、何百万人のファンにとって、より魅力的で透明性のある観戦体験を生み出す」
デビューはいつ?どこで?
最初のお披露目は2026年3月、PPA Tour(Carvana PPA Tour)のグレーター・ザイオン・カップ(Greater Zion Cup)。ユタ州で開催されるこの大会が、AI自動ライン判定の「初舞台」となる。
MLPレギュラーシーズンは2026年5月下旬に開幕。そこからフルシーズンを通じてOwl AIが稼働する。
ちなみにMLPの2025シーズンは好調だった。スポンサー収益は2倍、チケット収益は94%増、観客動員は52%増、SNSインプレッションは400%超の増加。勢いに乗るリーグが、テクノロジーでさらにギアを上げる格好だ。
ピクルボールの未来が変わる一歩
プロピクルボールでは、賞金額の上昇とともにライン判定の正確さがより重要になってきた。選手が自分でライン判定をするルールが残る中、意図的な誤審への懸念も高まっている。
テニスでは2006年のホークアイ導入が競技の透明性を劇的に変えた。あれから20年。ピクルボールは、ハードウェアに頼らない次世代の方法で同じ革命を起こそうとしている。
カメラとAIだけで公平なジャッジを実現する。そのコンセプトが成功すれば、プロの舞台だけでなく、世界中のローカル大会にまで広がる可能性がある。



